2019/08/26

イギリスでEU配偶者ビザの延長申請が3回却下→控訴してようやくレジデンスカード発行に至った件の顛末(1)

このブログ更新をしなくなった理由がふたつ。

まずは勤務先での業務負荷が急激に増え、残業・休日出勤&自宅作業(無償)をしても全く追いつかない仕事量に振り回され、ブログを書く時間的&精神的余裕などなかったというのがひとつ。

さらに、2017年6月に入国したイギリスでの滞在許可をめぐるゴタゴタが、あまりにドラマチックになり過ぎてしまい、「イギリスでのハッピーライフ(うふ)」とか、「プライスレスなロンドンdays(キラッ)」といったポジティブなブログ執筆の原動力が枯渇・・・どころか、「延長申請3回却下...イギリス死ね」的にマイナス側へ振れまくっていたというのが、最大の理由。




ともあれ2019年の8月現在、上記問題は両者とも解決し、軽く病んでしまったココロの状態も落ち着いてきたので、今回のビザをめぐるアレコレを忘備録もかねて記しておこうと思う。

おおまかなタイムライン

2017年
  6月 EU配偶者ビザでアイルランドからイギリスへ入国
  9月 1回のEU配偶者ビザ延長(=5年レジデンスカード)申請

2018年
  1月 1回目の申請却下
  4月 国外退去命令・2回目の申請・国外退去の保釈
  8月 2回目の申請却下
  9月 3回目の申請
 11月   3回目の申請却下・控訴手続き開始
 12月 控訴受理・裁判日程決定

2019年
 06月 控訴審→勝訴
 07月 レジデンスカード発行
 08月 Brexitに伴うセトルメントビザへの切替申請



何故ビザの延長申請が却下されたのか?

日本人の私とイギリス人の相方は、結婚後20年ずっと日本で暮らしていた。

2016年にアイルランドへ移住。相方はイギリス国籍=イコールEU市民ゆえアイルランドではノービザで自由に「住み・学び・働く」権利がある。そして配偶者である私は、アイルランドにおいては「EU市民の家族ビザ」(=以降EU配偶者ビザと記す)を取得し、相方と同じく自由に「住み・学び・働く」権利を得た。

アイルランドで色々と煮詰まってしまった我々は、2017年6月にイギリスはロンドンへ引っ越すことになるが、アイルランドからイギリスへ入国する際、私は「イギリス人配偶者ビザ」を取るべきか、それとも、アイルランド同様「EU配偶者ビザ」でよいのか?という疑問が浮上。

イギリス公式サイトGOV.UKと首っ引きになりつつ各方面にリサーチした結果、
EU加盟国に生活の拠点を移し一定期間を過ごしたイギリス人とその家族が、後にイギリスに住む場合、非EU国籍の配偶者はイギリス法における「イギリス人配偶者ビザ」ではなく、EU法に則った「EU配偶者ビザ」が適応される
ということが判明

おお、なるほど!滞在許可というのはイギリスという小さなくくりの中だけでなく、EUという大きなくくりの中で有効なバリエーションもあるのねー、とその時は呑気に納得。試しにアイルランドのイギリスビザセンターで「EU配偶者ビザ」を申請してみると、ちゃんと6か月有効のビザが発行されたので、この「EU配偶者ビザ」をもって、私はアイルランドからイギリスへ入国した。

イギリス入国後3か月ほど経ち、生活の基盤が整い始めたころに、「EU配偶者ビザ」の期限更新の手続きをした。これは「5年レジデンスカード」申請とも呼ばれるが、新規にビザを取得するワケではなく、単なる既得ビザの延長申請なので、60ページほどの申請用紙への記載と20-30ページ程度の添付資料を提出するだけで完了と、しごくシンプル。元弁護士の相方に殆ど任せていたので、「余裕でしょー」とか「間違えようがないよねー」とか、今から思うと張り倒したくなるような事をヘーキでのたまい、無茶苦茶余裕かましていた愚か者であった。

そして能天気に「イギリスでのハッピーライフ(うふ)」とか、「プライスレスなロンドンdays(キラッ)」的なインスタやブログ記事をアップしては、ヘラヘラ過ごすこと約5カ月。

異国での大風邪にノックダウンされ続けた寒い寒い1月下旬に、ホームオフィスから分厚い封筒が我家に届いた。先に開封した相方は、その結果内容を見て「げっ、これは大風邪真っ最中のワイフには見せられない・・・」と、しばらくオロオロと隠ぺいしたらしいが、ま、結果的に、このビザ延長申請は想定外にも却下されていた。

4ページに渡りダラダラと的を得ない却下理由が記された却下レターによると

  • 色々資料出してくれたけど、アイルランドが貴方達の生活拠点だったという説得力に欠けるのよねー
  • イギリス人の配偶者なのに「EU配偶者ビザ」を適用するのは、つまりスリンダー・シンルートの悪用でしょ?
  • つまり、正規の「イギリス人配偶者ビザ」申請条件がクリアできないってことよね。

というのが主な論点だと、非ネイティブの私にもわかった。そして超ムカついた。なら最初から入国時に「EU配偶者ビザ」なんか発行するなよボケ、と声にならない叫び声をあげた。そして相方に八つ当たりをイッパイした。2018年2月初頭のコトである。




Surinder Singh(スリンダー・シン)ルートの光と影

却下レターで唐突に持ち出されたSurinder Singh(スリンダー・シン)ルートというのは、まさに我々のようなパターンで
イギリス人が非EU国籍の家族と共にEU圏内国に生活拠点を持ち一定期間以上を過ごした場合、後にイギリスに移動しても「EU配偶者ビザ」が非EU国籍の家族に適応される
というもの。

本来ならイギリスに滞在するための手続きはイギリスの移民法に則るべきだが、EU法で保護されたEU内自由移動の権利の方が優先される判例(1992年のスリンダー・シンのケース)があった事から、イギリス人の配偶者であっても、条件さえ満たせば「EU配偶者ビザ」でもいいよ、というルートが正式に認められているのだ。

【スリンダー・シンの判例】ドイツでイギリス人と結婚&居住、のちにイギリスへ移住したインド国籍のスリンダー・シン氏が、イギリス人配偶者との離婚を理由にイギリス移民法による国外退去命令を受けたが、これを欧州司法裁判所へ控訴した結果、EU内の自由移動の権利は非EU国籍の配偶者にも適応されるという判決が1992年に下った。

このスリンダー・シンのケースは人道的にもご尤もなストーリであるが、いやいや、世の中はキレイ事だけじゃない。この判決を前例として、「より簡単にイギリス滞在許可を入手する」ために、あえて短期間EU圏内国に仮滞在してからイギリスに入国する輩が急増した。法の目をくぐるとは正にこのことで、このスリンダー・シンルートを売り物にしたイギリス移住ビジネスも存在したくらいだ。

ではなぜイギリスに滞在するために、スリンダー・シンルートで「EU配偶者」を取得する人達が多いのか?というと、イギリスにおける正規の配偶者ビザ取得のためには、「偽装じゃなく正規に婚姻してますよ」証明の他にも、様々な条件と高額な申請料が必要だからだ。
  • イギリス人の条件:イギリス国内で6カ月以上の継続した定住所&定職の証明 / 貯蓄額1000万円相当or年収300万円相当の証明
  • 非EU配偶者の条件:英語能力証明
  • 申請料:25万円相当(2年半有効)+国民健康保険15-20万円相当

このくらいの条件はクリアできるのが普通じゃない?と思うのは、日本という経済的に恵まれた国に生まれ育った私たちの感覚であって、グローバルな世界の常識からするとハードルが高い。典型的なミドルクラスの相方ですら、「なんじゃこりゃー」と目ン玉引ん剝いていた。

ま、確かにイギリスにおける配偶者ビザ取得のための様々な条件と高額な費用は、イギリスに来る外国人をできる限り「ふるいにかけよう」という魂胆が見え見えなのだが、実際のところ一旦受け入れてしまった移民・難民の数がネズミ講並みに増加の一路をたどるイギリスでは、どこかで何らかの歯止めをかける必要は確かにあると、私個人的には思っている。

ダイバーシティをうたい、異文化を受け入れ、常に進化していくコスモポリタンな都市ロンドンは、現市長からしてパキスタン系労働者階級出身のムスリムだし、私のような移民にとっては居心地がよい。しかし先住民(!)である生粋のイギリス人にとっては、肌の色も、言語も、服装も、文化も、宗教も、常識も、立ち居振る舞いも、まったく異なる移民の人々に「まるで乗っ取られた」ような感覚がぬぐえないんじゃないかな?という印象を持つ経験が何度もある(もちろん非常に良識ある国民性が、それを決して露わにはしないが)

先のEU離脱に至った国民投票結果というのも、「“私達”の国を取り戻したい」という本能的な感情が、表面上の理性的かつ良識的な仮面の下から湧き出してしまった、哀しくもpatheticなイギリス人の心情の現れではないかと、私は踏んでいる。

ともあれ、人道的に理性的に公正かつ方正である証としての「スリンダー・シン判決」が、結果的に非EU国籍の外国人にとっての「イギリス滞在許可取得の裏ルート」として悪用されているのは、紛れもない事実のようだ。

そして残念なことに私と相方は、このイギリス滞在許可取得の裏ルート」としてのスリンダ・シンを悪用していると、ホームオフィスに判断されてしまった、というのが事の発端。

そして、ここから1年半にわたるホームオフィスとのバトルが始まったのである(続く)

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