確かにグーグルもフェイスブックもツィッターも世界に名だたる有名企業であるし、非常にダイナミックで最先端をゆく事業内容、報酬や福利厚生の高さ、そして超難関な就職率などを鑑みれば、そこで働くこと自体が一種のステータスになるのも分らなくはない。しかし、私の素朴な疑問は、何故ダブリンでは専門技能のない外国人がグーグルやフェイスブックやツィッターといったエリート企業で容易に働けるのだろうか?ということだった。
前回の投稿でも書いたが、ダブリンでアイルランド人よりも外国人が容易に働ける場所というのは、「低賃金の単純労働」であるのは間違いない。それはダブリンの街を歩いてみると一目瞭然で、様々なリテールショップやカフェ・レストランで働いているのは十中八九外国人だ。そして求人広告を見れば、コールセンターやテレセールスといった海外マーケット担当の外国人が多数募集されている。
では、ダブリンのグーグルやフェイスブックやツィッターでも、上記のような外国人向けの単純作業的な求人があるのだろうか?とリサーチしてみると、イエス!その通り、コンテンツ・モデレーターという、インターネット上に蔓延するポルノや暴力的コンテンツを監視し、不適切なものを削除する仕事を行う要員を多数募集していた。(その名称は企業によって異なるが基本的には同じ)
実は正直言って、このような精神的に過酷な仕事は中国やインドなどの人件費の安い国でアウトソーシングされていると思っていただけに、ヨーロッパのダブリンという都市で各国の外国人を集めて行っている事にちょっとだけ衝撃を受けた。
ちなみにコンテンツ・モデレーターってどんな仕事?というのはコチラをご参照あれ。
【記事】コンテンツ・モデレーション:SNSのダークサイドを見つめる仕事
【記事】Googleで児童ポルノやグロテスクなコンテンツがないか監視し続けた男性
【動画】The Moderators インドでモデレーターの仕事をする人達
グーグルやフェイスブックやツィッターといったソーシャルメディアのプラットフォームは、誰もが無料で自由に投稿ができるがゆえに、その国の暗部が如実に現れる。宗教的政治的紛争に関わる国々と、平和ボケした日本とでは規制すべきコンテンツの内容がまったく異なるが、基本的には誰もが安心して安全に利用できるよう、暴力や犯罪などの不適切な投稿に規制をかけるのと同時に、いじめや自傷や自殺予告など被害者の救済へも適切に対応できるよう能動的にも働きかけているのがコンテンツ・モデレーターの仕事だ。
もちろんそこには表現の自由と規制という、表裏一体の線引きがあり、そのグレーゾーンを巡っては多くの議論がなされ、ガイドラインとなる規定自体も常に改訂されている。が、それでも倫理基準は国や文化によっても異なり、非常にデリケートで難しい部分。だからこそ、アウトソーシングの中国やインドだけに任せず、その国のネイティブをダブリンに集めて分析も含めたモデレーション業務を行っているのが現状。
無駄にオシャレな朝食用のキャンティーン |
ところで英国のガーディアン紙はフェイスブックのコンテンツモデレーションに関わる諸問題を継続的に提起しており、2017年5月には極秘情報をすっぱ抜いた記事がリリースされ、欧米ニュースのヘッドラインにもなったことがある。また時を同じくして、タイ男性による子連れ心中の動画がフェイスブックにアップされたまま、削除までに丸1日を要したため、多くの人々の目に触れてしまう事件もあり(これを機に同社ではモデレーター要因を倍増することとなった)世間の関心を集めるようになったが、コンテンツを監視削除すればプライバシーの侵害!不適切なコンテンツが未削除のままだと管理不行き届き!と、一貫して「フェイスブック叩き」の域を出ておらず、あまり建設的な議論にはなっていない印象がある。
ガーデイアン紙の(アンチ)フェイスブック関連記事はコチラ
- Facebook under pressure after man livestreams killing of his daughter
- Underpaid and overburdened: the life of a Facebook moderator
- Who’s doing Google and Facebook’s dirty work?
- Ignore or delete: could you be a Facebook moderator?
- Facebook is hiring moderators. But is the job too gruesome to handle?
- Revealed: Facebook exposed identities of moderators to suspected terrorists
また一方Youtubeでは、グーグルやフェイスブックやツィッターのダブリンオフィス紹介動画が数多くあり、食堂やカフェ、休憩スペース、スナックやゲームなど、至れり尽くせりの職場環境を前面に押し出し、「こんなステキなオフィスで働きたい!」と思わせるようなイメージ作りに余念がない。
LinkdIn
実際に私がダブリンのツィッターとフェイスブックでモデレーターとして勤務を始めてみて感じたのは、この「イケてる企業のステキな職場環境」と「実際の業務内容の凄惨さ」のギャップだ。確かにオフィスのファシリティは素晴らしく、就業直後はインスタで自慢投稿ばかりしていた。
こんなランチが毎日・・・! |
しかし1ヶ月の濃厚なトレーニングを経て実際の業務が始まると、眼前のスクリーンに映し出される我々人類の闇の部分(ポルノや暴力やヘイトや自傷やその他諸々)に圧倒され、精神的にバランスを崩しかけたのは事実。そして、その慢性的にまとわりつくような嫌~な感覚を打ち消すために、無料で提供されるグルメな食事やスナックなどを無意識に口に放り込み、気が付くと毎日かなりの過食をするようになっていた。そしてそれは私だけではなく、周囲の多くの同僚たちが食事やスナックを頬張りながら虚ろな目でコンピュータースクリーンを見つめている姿が、そこにはあった。
緩慢にしかし確実に精神を蝕むような業務内容を続けていくためには、どこかで「イマドキのSNS企業のオシャレなオフィスで、インターナショナルな同僚に囲まれ、スマートに仕事をこなすイケてる私」という虚構イメージで己を奮い立たせなきゃやってられない!、ってのも多分にあるのかもしれない。それがゆえに冒頭で書いたような「オレさー、グーグルorフェイスブックorツイッターで働いてるんだよねー」的な自慢発言につながるのかな?って、気が付いたのは割と最近。
食後のアイスも無料 |
私個人的には、世界中の様々な国からやってきた人達と、人種・文化・宗教の差からくる価値観や常識の違いをシェアすることが非常に興味深かったし、更にその差異を共に認め合った上で、同じニンゲンとして変わらないコアな部分を改めて再発見できたことも、この歳にしてかけがえのない経験だったかな、って思ってる。
もしダブリンで仕事を探している人で、このモデレーター職に興味があれば、まずは経験してみてもいいんじゃないかな。今はかなり人員が増やされているはずだし、ナイトシフトがあったり、ワーホリもOKという噂も。トレーニングもちゃんとあるから、そんなに難しい仕事じゃない、それでも下記の資質は必要かも。
- 自国マーケットの文化やトレンドに精通している
- 多岐に渡る分野に関わる規定を理解し適用する判断力
- タイトな締切内で莫大な量の業務を正確に遂行する精神力
- トレンドや世界情勢により常にアップデートされる規定を迅速に活用する柔軟性
- 倫理・人道的に受け入れがたい「我々人類の凄惨で残虐な悪意」への冷静な対応ができる
あ、あと英語力。これは「後からついてくるよ」って話もあるけど、リンク先の記事が理解できる程度の基礎力はあった方が、ストレス少なくスムースに進むかと。
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