2016年の秋から、半年ほどアイルランドのダブリンに住んでいた。
イギリスにムリクリ取り込まれた北アイルランドではなく、ビョークを生んだアイスランドでもなく、U2とギネスとセントパトリックディの国、負の歴史を抱えたルサンチマンが隠しきれないまま、しかし武骨な人の良さがにじみ出るアイルランド。
一見イギリスっぽい光景が広がるのだけど、やっぱりどことなく野暮ったくて田舎臭い(それはいい意味でも悪い意味でも)、というのが私個人的な印象。
長い冬を挟んでの季節だったせいか、更年期のウツっぽい精神状態だったせいか、非常に荒んだ場所に住んでいたせいか、今から思い返すと結構ハードな半年だったような、気もする。
ダブリンで最初に住んだ場所が、これまた非常にハードコアで、生活保護受給者、アル中ヤク中、ドラッグディーラー、不法滞在者、ミワユミコ、外国人などなど錚々たる顔ぶれが勢ぞろい(笑)で、地元のChavにすら「うわっ、そこ前に住んでたけど、ヤバいねー」と苦笑いされる通りだった。
だけどね、ゴミだらけラクガキだらけで誰からも厭まれる場所だったけど、やたら絵になる光景が好きだったなぁ。
安普請の隣人は、超イカレたヤク中カップルで、いつも怒鳴り合いのケンカをしていたけれど、訛りがキツすぎて何を言っていたのかよく分らなかった。もう絶対的に道を外したルーザー街道邁進中の彼らは、道端でもケンカ売ってばかりいたけれど、「なんかよく解らないスランティアイズのアジア娘」には変な気を使ってくれてたような気がする。
ダブリンでは、やっぱり沢山のベガー(お金を恵んでもらう人達)がアチコチにいて。もう身なりからして、立ち居振る舞いからして、物乞いする者のソレだから、最初のうちはガン無視してた。目合わせちゃイカン!とか、ビビっていたのね、私。
だけど、自分に余裕がでてくると、周囲を冷静に観察できるようになって。「小銭くれない?」と声をかけられても、「ごめんなさい、今は手助けすることができないの」と目を見て礼儀正しく断ると、必ず彼らは「サンキュー」と礼を言うことに気づいた。
サンキュー?ビタ一文も施していないのに?何故お礼を?
最初はピンとこなかったけど、立ち去り際にハッとした。あのサンキューは、きっと、「無視しないで断ってくれて、人として対応してくれてありがとう」だったんじゃないかな、って。
確かに、止むにやまれない理由により道で寝泊まりしたり、物乞いをしなければならない彼ら彼女らは、どれだけの人々から蔑まれ、罵られ、無視され、虫ケラを見るような眼差しに晒され、傷つけられてきたことか。
同じような状況でも、これがインドなら、断れば「何故だ!」と怒られるし。ロンドンなら、断れば「バカヤロー!」と罵られるし。そんな意味でも、アイルランドって、どこか朴訥だよなぁ、と、まったくもって勝手にそんなことを思っていた2017年初頭ごろ。
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