2007/04/10

10分間



物売りと物乞いとサルと牛と参拝者とスクオッターで混雑する寺院前で、地面に座り込んでコーラを飲んでいると、肉体労働者の男性2人が声をかけてくる。私の片手に持ったカメラで写真を撮って欲しいらしいことは、ジェスチャーで判る。カメラを向けると、緊張で険しい顔つきになる。「リラックス、リラックス!スマイル!」と声をかけても、ますます固い表情になる。取れた写真をプレビューで見せながら、「おー!このセクシーガイはどこの誰や?」と大袈裟に笑いかけると、険しかった男性の顔に、ちょっとだけ笑みが浮かぶ。

彼らが去ると、ラリラリの青年と小汚い男の子が寄って来る。ラリラリの青年は、歯が溶けかけた口を開いて、目の前に聳え立つ祭り用の山車のことを話しかけてくる。彼が何を言っているかはさだかではないが、私は微笑みをかえし聞いてるそぶりを見せる。小汚い男の子はスイカの切り端を大事そうに持ち、私の隣に座り込む。私は飲みかけのコーラを男の子へ手渡す。男の子はビックリしたように恐る恐るストローに口をつける。炭酸の味にビックリする様を見て、ラリラリの青年はゲラゲラと笑い出す。ビックリするほどのコーラの美味しさを知った男の子は、貪るようにコーラにかぶりつく。誰にも取られないように、悲しくなるくらい必死の形相になる。が、すぐに、飲みきれないコーラのビンを手にしたまま、呆けたような無表情で動きが止まる。すかさずラリラリの青年が、男の子の飲み残したコーラのビンを奪いとり、ストローを引き抜きわずかな黒い液体をゴクンと一気飲みする。

飲み干すやいなや、「マイ・フレンド!」そう言って、何かを話そうと焦るラリラリの青年の目に、あわよくば私からなんらかの「ギフト」を搾取したい欲望が浮かぶのが判る。私は微笑んで、「もう私は行かなきゃ、よいイブニングを送ってね」と、その場を去るべく立ち上がる。施しを求める男の子の手が、条件反射のように私に差し伸べられる。小銭も飴玉も持ち合わせていない私は、男の子の小さくて汚くてベタベタした手を握り、あやす様な声を出して、ブンブンと振って遊び、小さな体にハグをしてみる。男の子の目がちょっとだけ、嬉々とする。

ラリラリ青年は、「ちょと待った、マイ・フレンド」と簡単には諦めない。私は手を振り、「また明日ね、マイ・フレンド」と大きなスマイルでラリラリ青年の目を見つめる。ラリラリ青年の瞳に、諦念と失望が浮かぶ。だから、ラリラリ青年は「なんでだ!?」と言わんばかりに、頭を左右にユラユラさせる。私も「どんな企みもNOだからね」と諭すように、頭を左右にユラユラさせる。プイっと、視線を私から離すラリラリ青年。呆けたままの男の子。私は自分の浅はかな偽善ぶりに身震いをひとつ、そして夕暮れの雑踏をテロテロ歩き、彼等から遠ざかる。

なんの意味もない、とるにたらない10分間。しかし、人生はこんなことの繰り返しでできている。

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